麺料理

御食事処 ひかる【大阪市 住之江】

50年前に私は住之江区の西住之江というところで生を受ける。その頃、父は母と一緒に富士センターという小さなショッピングセンターの中で「魚徳」という鮮魚店を営んでいた。そのショッピングセンターの魚屋の横に小さい小さい家を建ててそこで暮らしていた。物心ついたとき(5歳くらい)にそのショッピングセンターは廃業となりしょうがなく両親は住之江区の加賀屋で6坪の寿司店を開業する。

その寿司屋は夜中の2時頃まで営業していたので当然、幼少の私は鍵っ子となり夕方まで友人と遊んだあと年の離れた高校生の姉の帰りを待って一緒に姉の作る夜ご飯を食べた。土曜日は特にする事がなかったので半日中大和川の堤防で一人で川を眺めていた。首には毛糸で吊るした家の鍵が一つ。姉も社会人になり残業やおつきあいで帰りが遅くなると晩ご飯を食べる事が出来ない。

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そんなときに表記の食堂でお世話になった。小学生の低学年の子供の晩ご飯を優しい言葉をかけてくれながら愛情を持って作ってくれた。

お金を持っていなくても食の細い私に好きなものを食べさせてくれた。母があとで支払いにいく。私は当時皆に「和ちゃん」と呼ばれていた。。

近所に用事があり40年ぶりの訪問となる。ずっと前に一度食事をした事があるんだけどそのときは何も言わずに食事をして帰った。この日は幼少の頃のお礼を言いたくて訪問する。

お店は40年前と全く変わらず。古いんだけど掃除が行き届いていてどこもピカピカ。外観はいかにも町の食堂。中もまったくそのまんま。飾り物も音楽もない。

当時若くてすらっとしていて綺麗だった女将さんも今年71歳と言っておられた。うどんや丼、ショーケースに入ったおかずがいろいろ。。どれもがちゃんと作っていて芯の入ったものばかり。見ただけで美味しいとわかる。。

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子供の頃こういったものを毎日食べてたんだなと思いながら壁に貼られたメニューをしげしげと見る。

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この日はきつねうどんと出し巻200円、中御飯を所望する。若いときの女将さんの印象しかないから女優さんが老人の役でメイクしているようにしか見えない。女将さんが配膳で動き回る様子を見ているといろんな幼少の頃の出来事が走馬灯のようによみがえる。

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出汁巻はひたすら柔らかい。味の加減も完璧。うどんの出汁も美味しすぎる。食べてるうちに目がうるうるとなる。食後に一息つきながら、このお店の裏に自宅があった事。晩ご飯ほぼ毎日お世話になっていた事。このうどんを食べて自分は大きく育った事。このうどんが自分の食生活の原風景である事。そしてそのお礼をちゃんと言いたくて今回訪問した事。そんな事を話させてもらった。

話をしていると涙が出てきた。。「和ちゃん、ちゃんと覚えてるよ・・」「魚徳さんも商売立派になりはって・・・よかったわ〜」寡黙なご主人も表に出てきてくれて話し込む。。

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「父母も健在なので今日の事は報告します。本当にありがとうございました」と申し述べて店を出る。

住之江区西住之江3−2−21

大阪市 住之江 麺料理和食

麺と心7【大阪市 天王寺/阿倍野】

阪堺電気軌道鉄道上町線阿倍野駅南100mにあるラーメン店。電車で店の前を通るたびに行列ができているのでずっと気になっていた。この日は知人の葬儀参列の帰りに訪問する。鶏と魚介のW白湯スープが看板商品なんだけど普段ラーメンを食する習慣がないのであまりよく理解出来ない。

「新味」と呼ばれるカジキマグロをスライスしたものを温燻低温調理でレアに仕上げたものがチャーシューと共に麺の上にのっかったものが有名らしいがマグロが苦手なのでチャーシューだけがのっかったデフォルトの商品を所望する。

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ビジュアルがとても美しい。。美しいものは必ず美味しいと言う原理原則がある。W白湯スープは鮮魚のアラをベースに昆布と煮干し、サバ節(と思う)などで取った出汁と鶏のもみじなどをに出したコラーゲン系のスープを合わせたもの(と思う)。魚の臭みは皆無で、逆に甘くて旨味が凝縮している感じはするのだけどこの味になれていない50才のおやじにはスープの粘度とクリーミーな舌触りが違和感を感じてしまう。

麺は平打ちのストレートでコシもあってかなり美味しい。小麦の味がしっかりとする。粘度のあるスープにしっかりと絡みながらものど越しもいい。 食したあとの後味もクリアで全くしつこくなくよく考えられたモノと感心する。メンマのかわりに筍の天ぷらがのっかっているのも悪くはない。
ラーメンもどんどん進化するのかといい勉強をさせて頂きました。

大阪市阿倍野区阿倍野筋4-12-13
tel:06-6657-7479
11:00~15:00
18:00~22:00
定休日:無休

麺と心 7ラーメン / 阿倍野駅松虫駅天王寺駅前駅

昼総合点★★★☆☆ 3.5

大阪市 天王寺/阿倍野 麺料理ラーメン

赤間茶屋 あ三五 (アサゴ)

友人と福岡の繁盛店を視察。某有名食通の方が日本一の蕎麦屋が福岡にあるからと言う事でわざわざ訪問。薬院駅から徒歩3分。住宅街である中央区白金と言うところにある。聞く所によれば山口の下関で20年蕎麦を打ち、博多に移転して店を構えて8年らしい。

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ファザードはいたって普通。特に奇を衒った店構えでもなく木の看板が目印。店内に入るとカウンターのみという席の構え。カジュアルな感じの空気が流れている。

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私服を来たご主人と接客係の若いアルバイトが2人。若くて綺麗な女性(奥さんか・・)が調理の補助。指示はすべてご主人から発信。店は全席カウンターのみ。当初は天ぷらでビールを頂きながら最後の締めにそばを頂こうと思ってそのようにお願いをする。単品もいろいろあるがなんか勝手が違う。

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煮えたぎる大釜の前に座る。ライブ感たっぷりの特等席。オープンキッチンを目前に大きな一枚板のカウンターに腰掛けるスタイルは蕎麦屋というよりまさに小料理屋か寿司屋の風情。目の前にメニューが貼ってあるんだけどどうしても勝手がわかんない。

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ご主人が「うちの店の客は注文をしないんです」と訳の分からん事をのたまう。そういえば周りの客も黙って座って出されたものを食しているよう。

実はこの店はご主人が客にお腹の減り具合や滞在時間、好きなもの、野菜を食べたいのか否か、その日の体調などをヒアリングしながら献立を立てて変幻自在にいろんなものを提供すると言うフルオーダーメイドの蕎麦料理店。。

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百合根や蓮根、牛蒡、葱、山菜などの天ぷらをつまみながらビールを頂く。天ぷらは天つゆか辛味大根醤油を選ぶことができる。間違いなく辛み大根醤油をチョイスする。普通に美味しい。
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海老の天ぷらも上質なんだけど店主が仕事をしながら「あなたの食べ方(注文方法)はうちの店ではルール違反」「あとで出すもののバランスが悪くなる」とか言う話になってそこから「蕎麦屋の天ぷらと天ぷら屋の天ぷらの違いは何か」とか言う話になって「おもろいなあ」と思ってたら「野菜食べますか・・」みたいな話になって「今からご主人に何もかもお任せするんで美味しいもん全部出してください〜」って言ってしまったら「それがうちの店の定石です」となり食事が再び始まった。

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左の緑色は蓬を練り込んだもの。右は真っ白な蕎麦で素麺のよう。小麦で作ったそこらのそうめんの白さを超えたピュアな上品でブリリアントな白さ。いわゆる丁寧なつくりが故に「御膳さらしな」と呼ばれるもの。「この蕎麦は食べれば食べるほど腹が減る」とご主人の談。この蕎麦を一目見ただけでノックダウン状態。本物を見たのは実は始めて。滑らかな口当たりと弾力ある歯ごたえとかそけき蕎麦の甘味としっかりとした上品な旨味は今までの蕎麦の概念を変えてしまう。ゆで時間は10秒くらい。ご主人曰くは実は蕎麦は茹でなくてもいいんですとのこと。その理由は後ほど。

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和布蕪とツワブキの前菜。なんとも高貴な逸品であろうか。。野菜の下に蕎麦が敷かれていてそれもめちゃ旨。素材の味がとっても強い。すべての客にコミュニケーションを取りながら違うものを提供しているので記憶力がとても大事と言っていた。
作っている間にも口はずっとしゃべり続けていて蕎麦の種類や産地の説明などが延々と続く。ご主人の蕎麦に対する愛情が半端じゃない。うんちくを語るとかじゃなくて愛情があって、みんなに美味しく食べてほしくて少しでも蕎麦を理解してもらおうという気持ちが尋常ではない。

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この店は、アルコールはエビスの瓶ビールか〆張鶴のみ。蕎麦猪口になみなみと入れてくれるのが嬉しい。純米ならではのまろやかな旨味とふくらみ、程よい酸味と甘味もあって桜餅の香りもしながらの見応えもしっかりある。一言で言えば料理をより美味しくする上品なさばきと吸い込みのいいお酒。この酒をチョイスするご主人のセンスも素晴しい。

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土筆なんだけどご主人が「東北で採れた山菜を蕎麦の出汁でお浸しにしたものが一番美味しい調理法」とのたまふ。山菜は揚げるものではなく麺つゆではかるもの。口に入れるとまさしくその通り。これだけでお酒が一合すすんでしまう。土筆の強い春の芽吹きの味を繊細な蕎麦が受け止める。

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湯葉でさらしなを巻いた蕎麦寿司。蕎麦寿司だけでもこちらのお店は何十種類もあると言っておられた。中に鋳込まれているのはわさび漬け。人工の味は何一つない。アルコールがどんどんすすむ。突き出しの蕎麦味噌もかなり美味しかった。

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芝えびの天ぷらは一番最初に注文したんだけどご主人の指示で最初は揚げたてを出汁につけずにいただく。2匹目は少しだけ出汁につけて食べる。残りは45分置いて味がしみ込むのを待って食べてくださいとの事なのでこのあたりで日本酒と一緒に食す。言葉がでないくらい美味しい。叫びたくなるのを必死でこらえる。

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蕎麦を粥にしたものにとろろをあわせて蕎麦の実を乗せたもの。香りがすごくいい。この香りだけでお酒が進む。この間もご主人との蕎麦談義が進みまくる。出している料理が科学的で論理的な事に驚く。カウンターの中で忙しく動き回りながらしゃべりまくるご主人に敬服する。客と料理の案内と蕎麦に関わる話などコミュニケーションを取りながら次から次へと蕎麦を湯がく。天ぷらを揚げる。そして旬の素材を使った美味しいものをどんどん出して来られる。

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更級に柚子を打ち込んだもの。お初天神のお店で昔よく頂いたけどモノが全く異なる。
今まで更科蕎麦に蕎麦の風味があるとは思わなかった。田舎そばに比べたらパンチはないけど品のいい料理として蕎麦を昇華させていることに敬意を表する。蕎麦の甘さもちゃんと感じられて辛み大根と一緒に食べるといっそう蕎麦の甘味を感じる事が出来る。

すべての蕎麦は前日に打たれると聞く。一晩寝かすと対流がよくなるらしい。それを小さなパックに分けて冷蔵庫で保管。私は蕎麦って言うのは三たて(「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」)が良いとずっと思っていたんだけどご主人の説明を聞いて目からうろこ。

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ここで生の穴子をあぶり出す。そして温かいそばを口直しにとのこと。これを食べると又お腹が減ってスタートのお腹の具合に戻るとのこと。十割り蕎麦なんだけど蕎麦で1合、穴子で1合、汁で1合日本酒が飲める。この汁の完成度には驚いた。素材もさながら蕎麦のお手本と言った感のあるもので今まで食してきたものとは全くレベルが違う。

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鴨汁も食すようにと勧められるがお腹がいっぱいになってきたのでやんわりと辞退すると蕎麦を抜いた鴨汁なら食せるだろうと言う事でいただくと再びぶっ倒れるくらいの衝撃を頂戴する。岩手の鴨と言っておられた。分厚い鴨の旨さもさながら葱とエキスの出まくった汁もかなり濃厚。これで再びお酒2合頂くこととなる。

ご主人曰くは蕎麦は盛りそばよりも温かい出汁で食べた方が味がよくわかると言っておられた。ご主人のお勧めは「花巻」つまり熱々のかけそばにちぎった海苔を乗せた蕎麦の事。昔に関東で見たことあるけど最近は存在すら聞かない。たぶん海苔を蕎麦に乗せた様子が桜の花びらをまき散らした風情を見立てた名前かもしれない。これは次回の楽しみとする。

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〆はご主人一押しの二八そば。「十割り蕎麦は比較的簡単。」「二八は人格が蕎麦に出る。」「これが一番難しい」「うちの店で二八が美味しくなかったらおしまい」などとずっと言っておられた。いわば本日のメインイベントらしい。ビジュアルからわかるけどどの料理も蕎麦も仕事はめちゃくちゃ丁寧で綺麗。蕎麦想像を超える美味しさ。かなりお腹がいっぱいなんだけどもったりしない。程よい歯ごたえと心地いいのど越しも総じてスルスルと食する事が出来る。

「つけ汁」は濃厚でキリッとしているんだけどひたすら丸い。厚削りの鰹が風味よく汁に雑味なく溶け込んでいる。味のバランスも塩梅も完璧。この汁で又お酒が1合飲める。

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最後にそばがきをいただく。実はそばがきってどうやって作るかわからなかったんだけど本来の仕事はそば粉を湯で練ったもの。特製のホウロウの鍋で火にかけながら短いすりこぎのようなもので必死で練り込んで鍋ごと供される。ある塊は炙って出されて汁や味噌をつけて頂く。炙っても炙らなくても美味しいらしくて私は作ったあとの鍋に引っ付く風味満点のパリパリになったそばがきを引きはがしながらそれを肴にまたお酒を1合いただく。

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最後にご主人が自ら入れてくれるそば湯を頂いて出来立てのそばがきに粒あんを乗せた「ぜんざい」でしめる。そばがきはもちもちして旨すぎるのは当然。

最後にご主人が直筆でこの日頂いたものを書いていただく。脱帽なり・・・

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今回カウンター越しにお任せで料理を出してくる蕎麦屋を生まれて初めて体験する。どの蕎麦もどの料理もどこよりも突出している。食材も上質なものばかり。関西に蕎麦ソムリエの方がいらっしゃってその方も一押しのお店らしい。。近日中にもう一度再訪する予定。

福岡市中央区白金1-4-14
092-526-4582営業時間:11:30~21:30
定休日:火曜日、第1月曜日

赤間茶屋 あ三五そば(蕎麦) / 薬院駅渡辺通駅西鉄平尾駅

夜総合点★★★☆☆ 3.5

麺料理 九州地区