鮎料理といえば滋賀県の名店「比良山荘」。夏だけではなくどのシーズンでも本当に上質な料理を楽しめる。大阪から車で約2時間。お店は創業50年で当初は登山者のために開いたというだけあって山深い比良山の登山口に位置し、周りは集落しかないホントに何もないこの辺鄙なところへ関西や名古屋からバンバン昼夜関係なく車や新幹線に乗ってお客が集まる。 決して安い店ではないのだがこの料理店には人の心をぎゅんと鷲づかみにするようなたおやかにして強烈なパワーがある。このお店で出される料理の食材はこのあたりで人の足と手で集められるものばかりという考え方。魚は川魚、肉は鹿や猪、そして熊。大切な水は比良山系の湧水という贅沢さ。この店で感じる独特の空気というか霊気は土地の自然を敬いその恵みに感謝しているこのお店の考え方から発生しているものと感じる。 お店は「山の辺料理」と書かれた看板以外たいそうな外観や設えは全くなく、おかみさん自らお店の前でお出迎えいただき、早速座敷に案内いただくとオープンウインドーの縁側から綺麗に手入れされ整えられた庭を望むことができる。これだけでも心が解放される。 注文はこの店で一番人気の「鮎食べコース」の鮎ご飯付き。この時期だけらしい。仲居さんの丁寧なるご挨拶とともに最初に出てきたのは自家製柚酒と自然薯と鰻の茶わん蒸し風先付け。 目にも涼しげなゼリーがかかっていて自然薯に卵を混ぜたものにゴボウや鰻、夏野菜が入っていてどこに入ったか、いつ食べたか分からんくらいするするペろっといってしまった。 茅葺き屋根の器(たぶん信楽焼き)に入った「鮎のなれ寿司」は鮒寿司ほど強烈な匂いや酸っぱさもなく結構マイルドでこれがこの店オリジナルのものと聞き納得。塩漬けにした鮎を春にご飯と一緒に樽に漬けこみ発酵させたものであろうが何とも旨く、これだけで日本酒5合はいただけるひと品。この時点で純米酒の冷をいただく。最高のマリアージュ・・・year!。。。生きててよかった・・ 小鉢に入った「岩魚のうるか和え」も日本酒にぴったり。滋味深く魂が揺さぶられる味。うるかの余韻がいつまでも続く。。。 「ほんまに美味いなあ・・」と言いながらふーっとため息が出てしまう。このなれ寿司と日本酒の取り合わせはベストオブザベストといえる。これ間違いなし・・ お造りは庭で泥抜きされている丸々太った鯉の洗い。全く臭みもなくピリッと締まった辛子酢味噌と相性ばっちり。こりっとした食感と鯉特有のタンパクな味が暑気払いとなる。盛り付けも美しく独特の美的センスも感じられる。 ここで本日メインの「鮎の塩焼き」が運ばれてくる。蓋つきの大鉢の中は燻された木片から発する煙と共に笹に飾られた真っ黒に焼かれた目の前を流れる安曇川の鮎のてんこもり。 この店では鮎は生きたまま串打ちをして強火で真っ黒に焼きまくる。多分頭を下にして焼いているので体中の脂が頭にたまって頭はフライのようにパリパリになっている。これがこの店の専売特許。がぶりと一口頭から丸かじりすると香ばしさが味雷から延髄にそして大脳全体に駆け巡るのがわかる。口の中で身と骨や皮やヒレが混然一体となって舌の上を様々な食感と味が駆け巡る。骨は全く気にならない。蓼酢も香りが鮮烈で蓼の荒々しさと身の甘さがなんともいえんようになって手が止まらなくなる。お酒はもちろんビールを堰を切ったようにゴクゴクいただく。これが最高の取り合わせ。頭からしっぽまでバリバリとヒレも何一つ残さず一瞬で鮎中毒のようにすべていただいた。 続いて鮎の塩焼き連続攻撃。第2弾が器を変えて登場してきた。旨すぎて飽きることもなく中毒と化した私はムシャムシャ食らいつく。小ぶりなので一匹をふた口でどんどんいってしまう。 目の前の安曇川の鮎の解禁が7月5日であることはこの店の常連であっても知る人は少ない。この川は鮎が天然遡上する数少ない清流で大きくなっても15センチくらいの小ぶりでその分、味が凝縮されて独特の香り高い塩焼きになる。遡上も海からでなく琵琶湖なので泥臭さや変な養殖鮎の脂っぽさは全くない。まさに香魚の名にふさわしい。この店では6月来店のお客は他所でとれた天然鮎をしょうがなしに使うといっていた。 塩焼きの香りを堪能して塩の付いた指をペロペロなめながら純米酒を飲んでいるとぐつぐつと音を立てて出てきた、見るからに作家ものの楽焼土鍋の中からなんとも言えない鼻腔をくすぐるものが登場。おかみさんが「月丸鍋」ですと言われ、なんとも風情のある鍋の名前かと思っていたら熊とすっぽんの合い混ぜ鍋であった。すっぽんは普段よくいただくが熊は過去数回しかなく印象もあまり良くなかったのでちょっといまいちかなとなめとったらえらいめに合った。 熊鍋はこの店では月鍋と言っている。ご主人がこの鍋のいい名前ないかと考えていたら「雪月花」の真ん中の月の字を取ったといっていた。ちょうど熊もこの近くでとれるツキノワグマなのでそう名付けたらしい。ここらの山の中には熊の好物のドングリや栗が豊富にあってそれを食べ栄養たっぷりの冬眠前の熊を捕まえるらしい。なかなか取れなくこの店で昨年手に入ったのは3頭と聞いている。 食してみるとくさいとか脂っこいとか固いとか全くない。これホント。。東北地方でいただく熊鍋は味噌仕立ての寄せ鍋風で結構温まるけど出汁が濃くて何の肉でもさほど変わらんって感じで不味くはないけど旨くもないというのが過去の熊鍋の印象。しかしここはスープはすっぽん仕立てでなんとも言えない滋味深さを醸し出し、懐石のお椀のようにするするとお腹に入っていく。 熊肉は赤身よりも脂身が断然うまく、コラーゲンそのもので口に入れたとたん甘くほどける舌触りで思ったよりも繊細で、脂分はほとんど感じない。たとえればさらしクジラのようなあっさりした脂身。全くギトギトしていないしス、ープに灰汁も全く出ない。まさに目からうろこ状態。写真の黄色いのはすっぽんの卵。 ご主人曰く、冬になればこの月鍋、最近リピータに大人気でそのうち夏の鮎よりも人気が出る気がすると言われていた。次回は熊のホルモン食べさせてほしいと所望した。記憶に残る味とはまさにこのこと。 熊鍋を堪能してほっとしていると鮎の塩焼き第3弾の登場。まさにやられたっていう感じこの店はお客を喜ばす術をきっちりとわかっている。もちろん鮎は焼き立てで熱々。供する皿も、取り皿も熱くして出してくれたのには脱帽。もちろん出てきた瞬間ぺろりと平らげる。。あと10匹位追加したかったが今シーズンもう一度来る予定があるので楽しみを残しておいた。 そのあとは珍しい鯉の卵と長芋やモロッコいんげん、ゴボウやなすびの炊き合わせ。このあたりは京料理の技術をしっかり持っておられるご主人の真骨頂。しんみりとした味は心を解放させる。 最後に出てきた土鍋に入った鮎ご飯は鮎の干物でとった出汁らしく、鮎のエキスも香りも身の甘さも相まってなんでこんなにご飯が旨くなるのかと不思議と感じる。本当に心が豊かになるストレートな料理である。 若奥さんが丁寧に鮎をほぐしながらお焦げも一緒に盛りつけていただきおなかいっぱいだったけど2杯食べてしまった。この御飯は鮎料理の究極のスペシャリティと私は思う。ホントに鮎って美味しいなあと感じさせる愛しい夏の味だなと再確認できる。 デセールはグレープフルーツのジュレとメロンやブドウのいいところ少し。食後はご主人自らの自家用車に載せていただきホタル見物に行った。山深いこのあたりでは7月が見どころと言っていました。ご主人もおかみさんもべっぴんの若奥さん(HPに写真掲載)の昔からの友達みたいな感じの近距離おもてなしもとても勉強になった。お腹も心も大満足で帰阪した。 詳しくはこちら
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