料理屋 植むら

現在、神戸の和食で食べログ2位、ミシュラン2つ星の表記のお店を友人と訪問。三宮駅から徒歩10分、北野坂をとぼとぼと上がるとペンシルビルと言うまさにそのような形の建物の4階に位置する。ワンフロアすべてがこちらのお店になっている。3階にあるミシュラン1つ星の寿司屋さんも過去に訪問したことを思い出す。

お店はカウンタ−11席のみ。18時と20時40分の2回制となっており今回は遅い時間帯での食事をこちらのお店の常連である著名なパティシェールの友人に予約いただいた。この友人も関西ネイチャーフードの第一人者で色々な料理本を執筆されており、この方がお薦めの和食店ということで大変期待をしていたのであるが、私が知らなかっただけで実は神戸では超有名店だったのにビックリ。また、予約がなかなか取れないことでも超有名らしい。

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定刻にカウンタ−一番奥の神戸の夜景が見える席に案内いただき、温かくてフワフワでふかふかのタオルのような大きなおしぼりで手を拭く。まずはアペリティフとしてアサヒの瓶ビールでのどを潤す。そのあとにご主人が一組ずつ丁寧にご挨拶に廻られ、苦手な食材を一人ひとりに聞かれているのには驚いた。

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黄交趾の器に入った座付きは車海老をレアに湯がいたものに「うるい」を挟んだもの、その上に土筆と菜種をあしらった早春の一品。
そのあとスタッフさんお薦めの日本酒スパークリングをいただく。タイプの異なるものが3種類くらいあったがお店の名を冠した「植むら」というものを所望。吹き出さないように静かに丁寧に抜栓されていたのが印象的。スタッフすべての方々の所作がとても美しい。

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お酒を頼んだ後、スタッフさんが巨大な桐の箱をもって登場。蓋を開ければひとつひとつ異なる江戸切り子のグラスがキラキラとした光を放ちながら整然と並ぶ。箱の蓋にはそれぞれのグラスの名前と御成が書かれていてし、ばらく眺めていたくなるほどの美しさと感動がある。どのグラスを選ぶかでその方の嗜好がわかってとても楽しい。

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グラスに敷く台も鏡になっていてダイヤモンドのような底のカットや光の反射を楽しむことが出来る。こちらのご主人の細やかな心遣いに脱帽する。デートであれば相手のグラスを選びあいっこすれば楽しいであろう。こちらのお店で使用するすべての器はオリジナルで窯元で焼いてもらうものか骨董品とおっしゃっていた。客筋もとても良くワイワイ騒ぐ客は皆無。

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前菜はつぼつぼに入った鱈の卵寄せ。低温で調理しているために普通のものよりも滑らかで優しい食感に仕上がっている。よく見るタイプの名前の入った玉子焼きは寿司屋のそれと違ってフワフワでとても優しい食感。たぶんメレンゲにして焼いているのであろう。よく見る鰯の梅醤油煮も下ごしらえ等にかなり手がかかっている。四角の枡に入った大豆はこれ以上柔らかく炊けないくらいに柔らかく仕上がっているのに全く煮崩れしていない。青味のお浸しもかなり上質。派手ではないが通好みの佳品が並ぶ。これだけでお酒が5合くらい飲めそうな感じ。

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料理の華である煮物椀は雪だるまのような器に入って登場。たぶん輪島の白漆でかなり高級なもの。お椀の中の蒔絵は雪の結晶の図柄で見ただけで高価であることがよくわかるオリジナルのお道具である。

お椀の中身はドカンと蟹糝薯が鎮座。見た目は地味だが糝薯の中には上質のずわい蟹の身がこれでもかというくらいに入る。出汁も蟹の殻でとっておりかなりバランス良く考えられたお椀となっている。金魚の水草を連想させるあしらえの神馬草もシャキシャキした食感と少しのぬめりが心地よい。客が喜ぶことをちゃんとわかっておられるのはさすがとしか言いようがない。

すべての料理を提供するときにご主人から説明が入る。洒落っ気もあってサービス精神も満点。最初に私に「苦手な食材は?」と聞かれたので「和食全般!」と答えると「今日はフレンチのコースをお楽しみください・・」とのこと。なかなかの切り返しが嬉しい。

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刺身は伝助穴子をさっと湯がいて炭火で皮を焼き上げたもの。最初は見ても全くわからず、甘鯛かなと思ったがご主人の説明で納得。かなり上質の山葵を大量に胡麻ポン酢に溶いて頂く。穴子の弾力ある食感と皮目の香ばしさと脂の甘味、炭の香りと噛めば噛むほど迸るパンチのありすぎの穴子の旨みにノックアウト状態となる。普通の魚の刺身とは完全に一線を画したものである。

目の前で包丁されて盛りつけられるパフォーマンスに食指が動きまくる。料理の味はもとより、用の美を感じる様々な器や調理道具のこだわり、炭や天ぷら油の音、料理を出す間合いなどこのお店の中の森羅万象がすべて計算し尽くされ一つの交響曲のようなお店のライブステージと言うか独自の世界に引き込まれてしまう。

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お造りの2品目は鰹の塩たたき。大きな切り付けにして燻煙を纏い塩をすり込んだ鰹は「一口でもぐもぐと頬張って下さい」とのこと。そのあと深々と頭を下げて「美味しくてごめんなさい!」とお詫びをされる。素晴しいサービス精神に客は大喜び。

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私は鰹が苦手なので明石の鯛をご用意いただく。私だけのためにわざわざ恐縮であったが涼しい顔をして普通に供される。

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赤絵の皿は古伊万里であろう。古いけど綺麗で清潔感のあるもの。高額であることは間違いない。こちらのお店はお道具と言うか器を見るだけで価値がある。。

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このあとうどんを大量に湯がいて氷水で締めて黒い塊を細かくスライスしてうどんにかけまくる。せっかちな私は「それなんですか〜」と聞くと「すぐにお出ししますので待ってくださいね〜」との答え。

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一見すると塩昆布のようだがそんなわけがなくたぶんトリュフかと思ったが香りもしない・・ご主人曰く「キャビアを固めて乾燥させたもの」らしい。うどんを混ぜていただくとまさにキャビアそのもの。。これは初めての体験。うどんにもこだわりがありご主人の出身の香川の製麺所に特注していると言っておられた。キャビアうどんは生まれて初めて食した。

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ここで香りの比較的少ない純米酒を所望する。ここでは桐の箱に入っていない特別なグラスを出していただき感激する。ラリックのような複雑なカットは光の陰影をカウンタ−の上に映し出し、グラスに注がれたお酒を見ているだけで上質な酔いを楽しむことが出来る。

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続いての焼き魚は脂がのりまくった金目鯛。ここ数年に食した焼き魚の中で一番美味しいものであった。炭の香りの付け方と皮目の焼き加減は完璧。

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ここで大きな信楽で特注された土鍋で炊かれた煮えばなの蒸らす前のやわやわでムニャムヤ状態の白ご飯を供していただく。茶道の茶懐石スタイルでとても面白い。かすかに芯が残った状態でご飯のアルデンテと説明されていた。京都の未在もこんな感じだった気がする。

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焼き魚を煮えばなのご飯とともにいただくとその皿に蕗の薹を揚げ、田楽味噌と芥子の実をかけたものが登場。私が「上に乗っているのはチョコレートですかぁ? バレンタイン仕様ですね〜、旬ですね〜」とご主人に尋ねると「よくわかりましたね〜、3月はホワイトチョコになりますよ〜」と軽妙なやり取りが延々と続く。

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続いてはかなり柔らかく炊き込まれた大きな鮑と炊いてからカリッと揚げられて供される海老芋の取り合わせ。特筆すべきは鮑の肝のソース。見た目と異なり味わいは驚くほど軽くかすかな磯の香が鼻腔を抜ける。苦みやえぐみ、独特の癖はみじんも感じられない。たぶん肝を後述するガストロパックで処理しているのであろう。をこんな美味しい蒸し鮑料理は初めて頂いた。

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続いて柔らかく炊かれた大根の上に大量に乗せられているのが鰤の田麩。丁寧に身をほぐしてパウダー状になるまで煎り込まれる。水分を飛ばしているので鰤の旨みが凝縮された感がある。大根と一緒に食すとまさしく口の中で「ぶり大根」が完成する。食材の出会いを再構築した遊び心溢れる逸品。

ご主人の作られるすべての料理は決して華美ではないんだけどその時期の選び抜いた食材の活かし方を的確に判断し、素材の持ち味を分解し、クリエイトしていく姿勢に敬意を表する。

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食事はご主人が自ら一膳ずつ茶碗によそってくれる。

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ご飯と一緒に供されるのはこだわりの食塩で高知県の田野屋塩二郎さんの超有名な完全天日塩のオリジナルと言っておられた。

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とても優しい味のちりめん山椒と香の物と胡麻味噌などのご飯の共も手抜きなし。

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デセールはガストロパックをして蜜を入れこんだ苺と湯がいた百合根を裏ごして作った羽二重の2種盛り。苺は食感は生なんだけどちゃんと火入れされていて蜜が実にしっかりと入り込んでいる。

ガストロパックは最新の科学調理機材で鍋の気圧と温度をコントロールすることで低温加熱でも料理のダメージなしに食材の色、栄養、旨み、香りを残すことが出来る。いわゆる「分子ガストロノミー」。昔に六本木の龍吟でガストロパックを使った食感は生肉みたいな肉じゃがを食した記憶がある。羽二重の上にのっかったの百合根のシャリシャリした食感も楽しい。

スタッフさんも皆、親切で礼儀ただしくて高級店にありがちな慇懃さも全なく、楽しくいい時間を過ごすことが出来た。季節が変わればまた再訪しようと思う。ごちそうさまでした。ヽ(*^^*)ノ

神戸市中央区中山手通1丁目24−14 ペンシルビル4階
電話番号 078-221-0631

料理屋 植むら懐石・会席料理 / 三宮駅(神戸市営)三ノ宮駅(JR)三宮駅(神戸新交通)

夜総合点★★★★ 4.0


カテゴリー 兵庫県, 和食, 神戸市 |