西天満で2013年6月に開業してはや2年。最近ちょっといい寿司をゆっくり食べようかというときに必ず利用する店。新地の名店「平野」で修行された若きご主人のしっかり目利きの効いた仕入れとその選び抜いた食材に対しての仕事の確かさで今やなかなか予約のできない店となっている。
場所はアメリカ領事館の北側で老松町を一筋入ったところ。北新地に比べてしっとりとした大人な店が多いのでこの界隈の店はよく利用する。寿司も乾山系の「鮨 林田」や隠れ家風の「鮨ろく」現在ミシュラン1星の「鮨 美菜月」などの超高級寿司店の立ち並ぶ激戦区にある。
お店の名前は「ふく吉」と書いて「ふくよし」と読む。7席のみの白木のカウンターは毎日磨き砂で磨いてヘチマでこすって最後に牛乳で仕上げる。すべすべのカウンタ−は赤ちゃんの肌のような手触り。
この日はいつものように何もかもお任せコースを頂く。
生ビールで乾杯をして座付きは無花果に枝豆の裏ごしした物を倉掛にしたもの。その上に三杯酢のゼリーがかかる。何も言うことのない美味しさ・・・普段は奥様も店に出ているんだけど3人目の子供が出来たということでこの日は自宅待機らしい。
ピカピカのつけ台の上に直接置かれる刺身は天然鯛を薄く切った物としっかりと切ったものの2種類。塩、山葵、醤油で頂く。皮目を炙って供されるのは今が旬のかます。このお造りの供し方も平野流。
次に登場は今が旬の戻り鰹。これもこの時期に平野さんに行くと必ず出てくるスペシャリティー。
私が赤身の魚が好みでないことはわかっていただいているので800gくらいありそうな大きな煮鮑を出しておもむろに大きくカットして出してくれた。こういうところが嬉しい・・美味しくないわけがない。
初物の秋刀魚の塩焼きは片身のみ。丁寧に焼かれて「あけがらし」が添えられる。パッと見はもろきゅうに添えられるお味噌みたいだけど食すとピリっとしてかなり不思議な風味で味も深い。山形産の仕込み芥子糀に麻の実をあしらった物らしい。甘くて辛くて食欲が出そうな味で昔は食欲喚起剤や強壮剤に使われていたらしい。和風の食べるラー油みたいな物であろうか。
このあとは巨大な甘エビを昆布〆にしたもの。ここでシャンパンを頂く。カウンタ−の裏にワインセラーがあったので2番目に安い物をとかなんとか言いながらそこそこのものを自分で取り出して自分で抜栓して美味しくいただく。
泉州のワタリガニの身と松茸と菊の花をあわせたお浸し。シャンパンとの相性は抜群。『平野』から独立した店は新地の「多田」福島の「金城」など7店舗ありそれらどの店も大繁盛していると聞き及ぶ。上海やアムステルダムに出店されて大成功をおさめている方もいると聞き及ぶ。平野の店主は人育ても凄腕である・・・
『平野』を初めどの店にも言えるのが、みんな高級店なんだけど、どこも偉ぶってなくてわざと敷居を低くするような会話をしっかりとされ、どんな方にでも美味しく食べてもらおうとする気持ちがダイレクトに伝わること。簡単なようでこれがかなり難しい・・
「平野」と同じ仕入れ先から入れる鯨。さらし鯨はその場で湯がいて温かいうちに供される。おの身のときもあるがこの日はさえずり(舌) 当然臭みやクセは全くない。鯨肉の旨みを充分堪能する。この店で出てくる鯨肉より美味しい物は食べたことがない。
福田氏のスペシャルティのタコの煮物は歯がなくても噛み切れる柔らかさ。イボや皮も剥がれず丁寧な炊き込みにいつも感心する。この日はしっかり炊かれた大根と水菜と松の実をクラッシュした物を添える。
煮物椀は出汁の美味しさに感激する。薄く剥かれた大根に隠れるのは白焼きした鰻と冬瓜。鰻の脂が薄く浮いてさらりとして喉の奥にストんと落ちる。まるで泉の水を飲んでいるような美味しさ。
焼いた鱧をクラッシュして餅米の上に置いたもの。この日初めて私のために作ってくれたらしい。気持ちが嬉しく涙がちょちょぎれる。
33才のご主人は宮崎の都城出身。修業先の仕事をきちんと踏襲して自分の物にされている。握りの所作もかなり美しい。。80センチはある大きな包丁を使って出来るだけ魚の細胞を壊さないように静かに切り付けをする姿は神々しい。それでいてお客様には常に謙虚な姿勢で対応される。
握りの最初は剣先烏賊から。熟成感もあって味がとても深い。この日はいないが奥さんも見ただけで人柄のよさが伝わってくる。このあたりも平野さん譲りか。
細魚も普通に美味しい。シャリが特筆するほど美味しい。必要な分だけ小さな保温出来るおひつに入れて握られる。シャリが美味しいので〆にシャリカレーをリクエストしたところそれだけは勘弁してくださいと逆にお願いされる。
のどぐろの美味しさは言わずもがな。
切り付けのスタイルも「平野」と同じである釣りの鯵はビジュアルだけでも美味しそう。。美しい姿の物はやっぱり美味しい。脂の甘味が脳を突き刺す。
大好物のシラサエビはかなり巨大なサイズ。レアに湯がかれていて甘味も上品で卵も味噌もとてもいい。泉州産とのことだがこのサイズんものはなかなか見かけない。
ここでいつも頂く、冷やおろしの石川県の宗玄の純米吟醸を所望。辛口の濃醇タイプ。口に含んだ瞬間、甘味を感じるけどその甘さが後に残らずに軽い酸味が広がる。どっしりとしたボリュームも感じられてこのお店の料理にぴったりのお酒である。寿司が負けてしまうから「美味し過ぎないお酒」をと言うといつもこれが出てくる。
新物のいくら。いくらの味の違いを説明するのはとても難しい。材料自身(魚種)もそうだし川で獲れる物と海の物、時期や加工の仕方で全く異なる物となる。この店のいくらは何もかもトップクラス。
コハダは1枚漬け。ありがちな〆過ぎ感もなくしっとりとしてとても美味しい。
いつも最後に出てくる穴子は塩と甘たれ。。皮の部分の脂が強烈。。目利きの素晴しさに敬服。ここまで旨味を引き出した穴子の握りはあまり見かけない。。平野のレシピと同じく笹に挟んで焼いて供される。熊笹の香りがついてかなり美味しい。煮詰めも上品で美味し過ぎ。ふわふわのトロトロで私の穴子ランキングではダントツ1位である。
最後はデザート代わりの玉子焼きとかんぴょう巻。これも平野と同じお約束の美味しさ。ごちそうさまでした・・・
大阪市北区西天満4丁目11番8号
06-6809-4696